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神戸地方裁判所 昭和35年(行)9号 判決

原告 野田博

被告 国 外四名

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、判決の申立

(一)  原告

「被告西田優は別紙目録一(1)、被告寺田利一は同二(1)、被告西口順司は同三(1)各記載の売渡処分が、被告国は同各(1)記載の各処分が、それぞれ無効であることを確認せよ。

被告西田は別紙目録一(3)、被告寺田は同二(3)、被告西口は同三(3)、被告川崎製鉄株式会社(以下被告会社という)は同三(4)(5)、被告国は同各(2)各記載の各登記の抹消登記手続をせよ。

被告西田は別紙目録一、被告寺田は同二、被告会社は同三各記載の土地を、原告に対し、明渡せ。

訴訟費用は被告らの負担とする。」

(二)  被告ら

(1)  (本案前、被告西田、寺田、西口らのみ)

「原告の請求を却下する。」

(2)  (本案)

主文同旨

二、本案前の主張

(一)  被告国

「自作農創設特別措置法(以下自創法という)による農地の売渡処分の有、無効は、右農地の被買収者の権利、法律上の地位と無関係であるから、被買収者である原告には、別紙目録各(1)記載の本件売渡処分の無効確認を求める当事者適格が欠ける。」

(二)  被告西田、寺田、西口ら

「右のとおり、原告に、本件売渡処分の無効確認を求める資格が欠けているからには、その無効を前提とするその余の請求も手続的に違法であり、すべて却下されねばならない。」

(三)  原告

「売渡処分を争うことが許されないとすれば、無効の買収をうけた者も、一旦売渡処分がなされれば、も早救済の途がないことになつて不合理である。買収処分の無効確認と併せて訴求することは許されねばならない。」

三、本案の主張

(一)  原告

(請求原因)

「(1) 別紙目録一、二、三各記載の本件土地は原告所有である。

(2) 本件土地について、別紙目録各(1)記載の本件買収処分、本件売渡処分がなされた結果、被告西田は同目録一、被告寺田は同二、被告西口は同三各記載の土地の売渡をうけ、本件買収処分については同目録各(2)、本件売渡処分については同各(3)、同三記載の土地については、更に、同三(4)(5)各記載の各登記がなされており、被告西田は同目録一、被告寺田は同二、被告会社は同三各記載の本件土地をそれぞれ耕作などの用に供して占有している。

(3) しかし、本件買収処分は次の理由で無効である。

すなわち、本件土地はいずれも、阪急電鉄線の北側にあり、西宮市都市計画の区域内にあつて、現に、別紙目録

一記載の土地は右都市計画による道路に東接し、北側に松村石油、関西牛乳運輸株式会社の各工場があり、東側は埋立中その東側は工場建築中である、

二記載の土地は市立屠殺場に北接し、その北側には広大な鉄筋アパートが建築されている、

三記載の土地は被告会社西宮工場に南接している

など、本件買収当時から、宅地的要素が多く、自創法五条五号にいう「土地の目的を変更することを相当とする農地」であつたのであるから、同法三条による買収計画樹立にあたつては、本件土地を買収目的から除外すべきであつた。それにもかかわらず、本件土地を除外しないで樹立された買収計画は違法であり、その計画に基く本件買収処分は無効である。

(4) このように本件買収処分が無効であるからには、それを前提とする本件売渡処分も無効である。

しかも、本件売渡処分は、本件土地には別にそれぞれ小作人がいたにもかかわらず、小作人でない被告西田、寺田、西口に売渡したものであつて、その際、自創法の要求するような、小作人に売渡すことが相当でないとする事由はなかつた。この点からみても、本件売渡処分は無効である。

(5) 従つて、これらの無効な処分を前提とする各登記は無効であり、それを前提とする本件土地の占有は原告に対抗できない。

よつて、請求の趣旨のとおり、本件買収処分、本件売渡処分の一方または双方の当事者である(被告会社以外の)被告らに対しては、その無効確認を、所有権に基き、別紙目録記載の各登記の権利者である被告らには、その抹消登記手続を、本件土地を占有している被告西田、寺田、被告会社に対しては、その明渡をそれぞれ求めるため、本訴請求に及んだ。」

(時効取得の抗弁に対して)

「被告国を除く被告ら主張の所有の意思による占有開始の時期は否認する。その時期は、被告西田、寺田、西口がそれぞれ本件土地の売渡令書の交付をうけた時であり、それは、別紙目録各(3)記載の登記のなされた頃である。それ故、本訴提起の時(昭和三五年四月二一日)までには一〇年を経過していない。」

(二)  被告ら

(請求原因に対して)

(1) 被告西田、寺田、西口

「本件買収、売渡処分は、すべて、自創法に基き、適法、適正に行なわれたものであり、何らの欠点もない。」

(2) 被告会社

「別紙目録三記載の土地が、もと、原告の所有であつたこと、被告国がこれを買収し、被告会社が、被告西口を経て、これを譲受けたこと、同目録三(4)(5)各記載の各登記のなされていることは認める。

その余の事実は否認する。たとえ、右土地が自創法五条五号に該当するものであつたとしても、無効原因とはならない。」

(3) 被告国

「本件買収処分、本件売渡処分、および別紙目録各(2)記載の各登記のなされたこと、本件土地の周囲の現況が原告主張のとおりであることは認める。

しかし、本件土地の周囲の現況が原告主張のようになつたのは、昭和三四年以降であり、本件買収処分当時は、自創法五条五号に該当するものではなかつた。従つて、その処分に重大かつ明白な欠点はない。」

(取得時効の抗弁)

(1) 被告西田、寺田、西口

「たとえ、本件買収、売渡処分が無効であるとしても、本件土地を、

被告西田、寺田は昭和二三年一〇月二日に、

被告西口は同年一二月二日に

それぞれ、売渡をうけて、善意、無過失に占有を始め、その後一〇年間、所有の意思をもつて、平穏かつ公然に占有したものであるから、右被告らは、時効により、その所有権を取得したので、右時効取得を援用する。」

(2) 被告会社

「被告西口の右原因による時効取得を援用する。」

四、証拠の提出、認否〈省略〉

理由

一、本案前の判断

ここでは、被買収者である原告に、売渡処分の無効確認を求める適格があるかが問題となるのであるが、確かに、売渡処分のみの無効確認は、それ自体としては、被買収者の権利、地位とは無関係であつて、例えば、農林大臣が、本件土地について、農地法八〇条による売払をする高い蓋然性があれば格別、被買収者という資格のみでは、確認の利益はないといわねばならない。

しかし、それだからといつて、直ちに、売渡処分を買収処分が無効であることの故に争い、更には、売渡処分の無効確認を、買収処分の無効確認と併せて訴求する場合にまで、確認の利益なしとすることはできない。行政処分の無効確認が、過去の事実を対象とするものでありながら、許容されるのは、それが、その処分による現在の法律関係を争う趣旨と解されるからこそである。この観点からすれば、本件売渡処分の無効確認は、被告国に対する関係では、本件買収処分の無効の当然の帰結ではあるが、それと共に、原告の本件土地の所有権が消滅していないことを基礎づけるものとして、また、被告西田、寺田、西口に対する関係では抹消登記、明渡請求の前提問題である同被告らに原告の所有権が移転していないことの確認を求めるものとして、いずれも、確認の利益がないとはいえないのである。

なお、原告は、併列的に、本件売渡処分のみに関する無効原因も主張しているが、原告に売渡処分のみの無効確認を求める利益が認められないとすれば、買収処分の無効を認めないで、右原因を理由とする売渡処分のみの無効確認をすることの許されないのは前述のとおりである。しかし、その売渡処分のみに関する無効原因の主張は、単なる攻撃方法の一つに過ぎないから、それをもつて、本件売渡処分の無効確認の請求全体を却下することができないのはいうまでもない。

従つて、本案前の被告ら(被告会社を除く)の主張は失当である。

二、本案の判断

しかし、原告が、本件買収(売渡)処分の無効原因として主張する事実は、たとえ、その事実があつたとしても、本件買収処分当時、本件土地に宅地的要素が多く、自創法五条五号による買収目的からの除外が必要であつたことが客観的に顕著であり、それを怠つた本件買収処分の欠点が、重大かつ明白であるとするに足るものではない(最高裁判所昭和三四年九月二二日判決、最高裁判所民事判例集一三巻一一号一、四二六頁参照)。(なお、この点では、原告が、本件売渡処分の無効原因として主張する事実についても同様である。)

従つて、事実審理に入るまでもなく、原告の本訴請求は失当であり、棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 前田治一郎 桑原勝市 米田泰邦)

(別紙目録省略)

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